外交上の孤立危機に立たされる日本 (Le Monde.fr より)


 

 

外交上の孤立危機に立たされる日本


2014年1月9日

 

植民地を拡大し、帝国主義だった頃の日本を思い起こさせる二人がいる。彼らは、それぞれのやり方と対照的な言い回しで、国内にはびこる払拭できない過去について語る。一人は、侵略戦争の史実を認め反省するべきだと主張し、平和主義を作品に具現化する、映画監督宮崎駿。もう一人は、過去のことは“弁明外交”で終わらせたい、首相安倍晋三。後者は、アジア広域支配を掲げた、あの軍国主義回帰をもくろんでいるかのようにも見える。



宮崎氏は、1941年日本が東・東南アジアの植民地支配に突き進んでいた第二次世界大戦の真っ只中に生まれた。1月22日に全国公開される新作「風立ちぬ」(=「Le vent se lève」ポール・ヴァレリーの詩の一節)は、ゼロ戦開発者の堀越二郎(1903年生ー1982年没)に焦点を当てた作品である。ゼロ戦は軍国主義のころの日本のシンボルともいえる存在。大日本帝国海軍の連合軍に対する特攻攻撃(Kamikazeが、この爆撃戦闘機を世界に知れ渡らせた。



しかし、主人公の人物描写は国家主義者たちに気に入られるものではなかった。それどころか、彼らに“裏切り者”の烙印を押されるような内容だった。“あの時代に、国家が破滅に向かう様子を見た、全ての若者に共通していた感情を描写したかった。”と宮崎氏は説く。Télérama(文芸雑誌)のインタビューに答えた映画監督は、平和憲法を改正しようとしている安倍氏の意欲を批判し、従軍慰安婦に対して日本政府は補償と謝罪をするべきだとしたうえで、日本の現状とあの時代の関連性に触れた。



誇りと強さ



「今の日本には、あの頃とそっくりな有害な空気が流れていて、二つの時代は驚くほど似ている。(中略)50年間、日本の人口は増加し同時に経済も発展した。それがここにきて全く逆の減少が起きている。人々が歩むべき方向性を見失い、人口は高齢化そして減少。政府は経済を成長させようと、めちゃくちゃなことをしている。堕落の予感が、柄の悪い愛国主義やら様々な悲観的思考を生んでいる。」



2006年から2007年の間の短い就任期間を経て、再度政権を率いるようになって1年以上がたち、安倍氏は自国が誇りと強さを取り戻すことを強く望んでいる。その欲求の影には、大国の座を取り戻し、海洋戦略(特に尖閣諸島(中国語読みはDiaoyuで日本を脅かしている中国がある。安倍氏はデフレからの脱却を最重要課題に位置づけた発起人であり、現在行われているアフリカ外遊や1月8,9日の外務・防衛両大臣によるパリ訪問などが示す通り、外交にもそれなりの活力を与えた。



米国の失望



しかし、1945年にA級戦犯として連合国軍に逮捕され、無罪放免となった後1950年に総理大臣になった岸信介の孫は、その祖父が生きた暗黒の時代を復活させようとしているように見える。2013年12月26日、彼は連合軍に処刑されたA級戦犯14名を含む兵士たちが奉られる靖国神社に参拝した。2006年以降、日本の首相のなかには誰一人として同様の参拝をした者はいない。神社に併設された遊就館という資料館では、ゼロ戦が参拝者を迎え入れる。そこでは、1930年から1940年までの侵略国日本が称揚されている。



中国と韓国の両隣国が予想通りの反応を示した一方で、米国は今回始めて失望を表明した。2001年から2006年まで政権を率いていた小泉純一郎の度重なる参拝を、米国が批判したことは一度もなかった。しかし、その頃と今では状況が違う。例え地域の主要国に、大規模な武力行使をする様子が見られないとしても、尖閣諸島周辺の緊張は高まるばかりであり、日本と近隣国の対話不足は地域の安全やリスク回避を害するに他ならない。中国に安倍氏を歓迎する気はない。それどころか、外務省の泰剛報道官が“東方のナチス”と発言するなど、中国は日本が戦犯としての責任を放棄しようとしていることを非難している。



参拝後、安倍氏は「御英霊に二度と戦争の惨禍に人々が苦しむことのない時代を創るとの決意を込めて不戦の誓いをいたしました。」と述べた。それらの言葉を理解してもらうためには、近隣国に嫌悪感を抱かせる象徴的な存在とは決別すべきである。靖国を利用しながら理解を求めるのでは、挑発と受け取られるばかりで孤立を際立たせるだけである。